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指輪を求めて






――ジリリリリ!
 鳴り響く目覚まし時計の音。
――ポチッ
 それを止める音。
――バタン
 勢いよくドアが閉まる。
――ダダダダダ
 それを超える勢いで階段を駆け下りる。
――トントン
 包丁が物を切り
――グツグツ
 鍋のお湯が沸点に達し
――チンッ
 電子レンジが加熱を完了する
――バタン
 そして勢いよくキッチンのドアが開かれた。
「おはようージーク兄ちゃーん!」
「おはようー桐斗くーん! 朝ごはん出来ているよー」
「いただきまーすー」
――バタン
「おはようージークー桐斗くーん」
「おはようーヒルドちゃーん」
「おはようーヒルドー、ヒルドも椅子に座ってー」
「いただきまーす」
「いただきまーす」
「めしあがれー」
「朝ごはんー朝ごはんーブレックファースト! 一日の元気のエネルギー!」
「朝ごはんー朝ごはんーブレックファースト! 栄養ばっちりよ!」
「たくーさん召し上がれ! ご飯にーみそ汁ー目玉焼きー」
「目玉焼きには醤油!」
「目玉焼きにはソース!」
「俺は豆板醤!」
「「それは無い!!」」
「朝ごはん朝ごはんブレックファースト! 眠さもどこかへぶっ飛ぶ」
「朝ごはん朝ごはんブレックファーストーーー!」
――カッコーカッコーカッコーカッコーカッコーカッコーカッコー
「ゆっくり食べていたらーーー遅刻よーーーーーーー!!」
「「あ……」」
 大急ぎで朝ご飯を食べて玄関に。
「行って来ますージーク兄ちゃん」
「行ってらっしゃいー桐斗君とヒルドー車に気をつけるんだよーー」
 桐斗とヒルドは元気に登校を始めた。
「おはーよう、おはーよう朝だ」
「空には明るいお日様よー」
「おはーよう、おはーよう朝だ」
「新しい1日が始まるわ」
「おはよう」
「おはよう!」
「おはよう」
「おはよう!」
「おはよーーーーー」
――ワンッ!
「「希望の朝だーーーーーー」」





 数時間後
「「ただいま!」」
「おーかーえーりーー!」
「まだやってるんかい!! というか、何でミュージカル風なの!!?」
「いやぁ、近い内にニーヴェルンの指輪に関する何かが起きそうだから原作を忠実に」
「オペラとミュージカルは違うから!!」
 この少年、駆羽桐斗はサッカーが好きなごく平凡な小学4年生であった、ついこの間までは。彼の祖父から貰ったサガストーンと呼ばれる石には勇者神という神が眠っており、桐斗の目の前にいる銀髪の青年ジークは桐斗の持っていたサガストーンから勇者神である。
「鬼のバイク乗りみたいな事だけど、あれ前半は不評だったんだから。玩具もディスク以外売れなかったみたいだし。まぁ、後半も路線変えすぎて不評だけどね」
「人間は過ちを繰り返すのさ。そして……俺達神はその過ちをただ見ていることしか出来ない」
 ジークは悲しそうな目をして遠くを見た。
「いや、やったのはあんたでしょうが……」
 しかし、この勇者神、全くといっていいほど神らしくない。いや、ファングラムになれば……まぁ、それなりに神らしいのであるが…………それなりに。うん、それなりに。本当にそれなりに……。
「ところで今夜近所の神社でお祭りがあるんだけど、みんなで行かない? ほら、ヒルドちゃんは日本についてあまり知識が無いからこの機会に日本の文化を知ってもらういい機会だと思うんだ」
 ヒルドとは桐斗と一緒に小学校から帰宅して来た金髪の少女である。彼女もジークと同じ勇者神ヴァルキリーの一員である。ヴァルキリーは北欧の勇者神の総称であり、勇者神とは戦う神、彼らは悪と戦うための力をもっている。しかし、ヒルドだけは戦う力を持っておらず、身体能力も精神も普通の小学生と同じなのである。ご近所からこの娘は何故小学校に通っていないのかを疑問視される事は勇者神としてこの世界を秘密裏に護っていくのに良い事では無いので小学校に通っている。
「それは嬉しいねぇ。俺達は日本の神では無いから日本の文化を知れる機会があるのはありがたいよ」
「俺達ってあんたも入るんかい!!」
「俺だってれっきとした北欧の神だよ。日本の神じゃないから日本の事はあまり自信ないよ」
――パンパカパン!
効果音であって決してパン屋の名前ではない。それにしても、パン屋の娘の恋人(♀)って可愛いよねー。海やパイナップルも好きだけどやっぱ1番可愛いよ。
「突然ですがここで【クイズ、日本をどれだけ知っているでしょうか?】の始まりです」
――パチパチパチー!
「第一問!」
――チャララン!
「日本で有名な犬の物語といえば何? さぁボードにお書き下さい!」
 司会の桐斗の指示通りジークと桐斗は同時にボードに書き込んだ。
「2人とも書けたようですね。それではまずヒルドちゃんから見てみましょう。どうぞ」
【忠犬ハチ公】
「この前テレビでやっていたわ。すっごくおりこうさんな犬だったの」
「おっ、これは中々日本の事を知っていますね。では続いて、ジーク兄ちゃんどうぞ!」
 【銀○伝説W○ED】
「日本通ってレベルじゃねえ!!」





 月見市内風間神社、PM6:14
「ねぇ、君可愛いね。俺と一緒にお祭り回らないか?」
 ふと声の方向を見ると紫の髪をし、小さな眼鏡をかけた青年が隣のクラスの佐々木さんに声をかけていた。
――トントン
「何だ、俺は今忙しい」
「何をしているのかね?」
「げっ!」
 それは黒い制服を身に纏い、ハジキを持つ事を合法的に許された特殊職業であった。
「ちょっと署まで来てもらおうか」
 紫の髪の青年は両脇をつかまれズルズルと引きずられていった。
「離せ! 俺を誰だと思っている! トリックマスターだぞ! 恍知の神だぞ! 貴様達が気安く触ってよい存在ではないのだぞ! 離せ! HANASEー!」
「何か変な人がいるなぁ。ヒルドちゃんも気をつけた方が……ってヒルドちゃんいない!!」
 ヒルドは出店に置いてあるおもちゃの指輪をじっと見詰めていた。





 ヒルド視点
 私は出店の指輪をずっと見つめている。これが安い玩具の指輪というのはわかっているんだけど、何か魅力的というか、心が奪わ れるというか……。
「指輪欲しいの?」
 桐斗君が突然後ろから声をかけてきたの。
「う! うん」
 私ビックリして声が上ずっちゃった。ちょっと恥ずかしい。でもいきなり声がしてビックリしたんだから。それだけこの指輪に集中していたのだわ
「お金は?」
 この指輪が欲しいわ。でも、私の物にならない最大の理由があるの。
「お財布……お家に忘れてきちゃった」
 私って本当にドジ……。





桐斗視点
 ヒルドちゃん凄く指輪が欲しそうな目をしている。でもお金が無くて買えないみたい。 凄く欲しそうなのに可哀想だな。
「じゃあ僕がお金出してあげるよ」
 ヒルドちゃんは可愛いからここは好感度を上げるいいチャンスかもしれない。そんな事 考えちゃ駄目だよね。ギブ&テイクを求めるのは駄目なんだよね。ギブ&テイク……求め たいけどね。
「本当!?」
 ヒルドちゃんの目はいつもキラキラしているけど、この時はそれ以上にキラキラしていた。それを見られただけでもテイクになるかもしれない
「うん。おじさん、これいくら?」
「7230円だよ」
「はっ?」
「7230円だよ!!」
 大事な事なので2回言いました。
「わかりにくかったかな? 覚えやすいゴロ合わせがあるよ。7ナ2ツ3」
「やめい! てか既にアーウト! ていうかていうかていうか、高!! 嘘だよね?」
「ははは、300円だよ」
「よかった。はい、300円」
 300円ならちょうどあった。よかったー。
「まいど」





 ヒルド視点
「ヒルドちゃん、どうぞ」
 桐斗君は買った玩具の指輪を私に渡してくれたの。凄く嬉かった。
「ありがとう。大事にするわ」
「どういたしまして」
 桐斗君は微笑んでくれた。優しい。





 視点終了 「甘ずっペー! げふんげふん、青春だねぇ」
「その声はジーク兄ちゃん! って何やってるの!!?」
 ジークは玩具売りの屋台の真正面にある焼きそば屋にいた。客としてではなく、作る方 に。
「いやぁ、屋台の主人さん、急用が出来たとかで代わって貰ったんだ」
 そう言いながらもジークの手はとても手際よく焼きそばを作っていた。
「すみません、焼きそば1つ」
「はいよ。へいお待ち!」
 ジークは手際よく、というか焼いている時間短縮していないか?という短時間で焼きそばを作り上げた。
「こ……これは…………!!」
 焼きそばを食べた男の目からは無意識に大量の涙が溢れ出した。
「か……神様だ……神様が現れなすった…………」
 男はその場で膝間付いた。
「神様じゃ」
「神様だ」
 とても優秀な大工さんの力でいつの間にか神社の隣に新しい神社が建立されていた。 ここに新たな日本神が誕生した。焼きそば神、慈夷玖尊(じいくのみこと)。





 そして、今は歴史となり、歴史は神話となった。





「ナオ、わしがお前に教えられる事はもう無い。後はこのやきそば神慈夷玖尊の導きによって愛のやきそばを広めていくのだ」
「師匠ありがとうございました」
 ナオは深々と頭を下げた。
「さて、わしはこれから……ぐっ……」
「師匠!」
 師匠の背中には割り箸が刺さっていた。
「ナ……ナオ…………復讐に呑み込まれては……ならぬ…………」
「師匠!!」
「お前は……強く生き…………」
 師匠は息を引き取った。
「師匠ーーー!!! 誰だ!? 誰が師匠を殺った!?」
「ふふふふふ」
 ナオの前に仮面を付けた男が現れた。
「そのマーク、力のやきそばによって世界を征服しようとする不死乃宮やきそば流!」
「まだわからないのか?」
 男は仮面を外した。
「ま……まさか……ライ兄さん……」
「ナオ、5年ぶりだな」
「嘘だ! 兄さんは誰よりも人々の幸せのために焼きそばを作る人だった!」
「あの頃の俺とは違うのだ。焼きそばは力だ! 力の焼きそばこそ世界を手に入れる絶対なるフォースだ!」
「違う! 焼きそばは力なんかじゃない! 愛だ! 兄さん、俺は兄さんを止める! 慈夷玖尊よ、俺に力を貸してくれ!」
 ナオの右手が光って唸った。
「所詮お前などこの俺の敵では無い所を見せてやる。俺の力の焼きそばに絶望せよ!」
 兄、ライの背中から暗黒の羽根が生えた。
「うおおおおおおおっ!!! ソースバスタァァァァ!!!!」
「うおおおおおおおっ!!! ネギシオザンバァァァァ!!!!」
 血を分けながらも愛と力によって引き離された宿命の兄弟が今、激突する!





次回予告
ナオとライの激しい戦いの中、ライはナオにナオが自分に勝つ事が出来ない絶対的な理 由があると語る。兄の言葉を信じられず愛を口にしながらも怒りと悲しみで攻撃をするナオだったが……
次回『敗北へのカウントダウン』
やきそばは今、進化する。





【サイドストーリー:753】
 ナオとライが殴りあう中、寺の上にある山で1人の女性が2人の戦いを心配そうにみて いた。
「ナオ……ライ……血を分けたあなた達がどうして戦わなければならないの…………これが私達姉弟に流れる呪いの血というものなの?どうか2人とも無事でいて!」
 女性は静かに涙を流した。
 次回からの勇者神記サーガ第2部、焼きそば大戦編にご期待ください。





「期待できるかぁぁぁぁ!!!」
 第2部にツッコんだ後、桐斗はある事に気付いた。
「あれ、ヒルドちゃんがまたいない」
「君可愛いね、外人さん?」
 青い髪の青年がヒルドに声をかけていた。
「よかったらお兄ちゃんと一緒にお祭り回らない? 絶対に楽しいよ。それに欲しいものがあったら何でも買ってあげるから。そうそう、君のお名前教えてよ。俺の名前は神崎しょ」
「犯罪行為はやめなさーーーい!」
――バギッ!
「ぐはぁっ」
 突然青い髪の少女がレーダーや魚群探知機にも反応しないような速さで現れ、フライパンでナンパ男の後頭部を殴打した。うん、あいつは軟派だ。結局年上と結婚しやがって俺は年上なんて認めないからな!
 とにかく、よい子はどちらも真似しないでね。 特に片方は犯罪だから絶っっっ対に真似しないように。
 そんな事作者に言われたくない?ちゃんとイエスロリータ、ノータッチを貫いているわ。
「か……神崎死すとも……ロリ魂は死なず…………」
――チーン
 死亡確認!
「お兄ちゃん! ニートの上に犯罪者じゃ生きているだけで恥ずかしいよ!」
 しかし反応が無い。ただのロリコンの屍のようだ。
「ま、いっか」
――ズルズル
 少女は青年の足を引っ張りながら去って行った。
 良い子は真似しないでね。後、超神の王者もよろしく。
「何だったんだ……今のは?」





「何人にも邪魔されずに家事が出来ますように」
 3人は賽銭箱にお賽銭を入れて神様にお願い事をしていた。
「やっぱり神様にお願いしたら適えてくれる気持ちになるよね」
 ジークが合わせていた手を戻して桐斗にそう語りかけた。
「いや、神様から神様にお願いされても困るだけじゃないかな……」
「それで桐斗君は何をお願いしたんだい?」
「……せめてあなただけでもまともな神様であり続けて下さいって」
「ふむふむふむ、なる程なる程」
 ジークは突然一人で何かと話している様な素振りを見せた。
「ん? ジーク兄ちゃん何独り言を言っているの?」
「ここの神様は迷宮の東が好きだってさ。賽銭でαΩのを買うんだって」
「賽銭返せぇぇぇぇぇ!!!」
 まぁ、そんなこんなでカメラマンが祟りで喉を掻き毟って死ぬ事も無くお祭りは無事に終わった。





 それからヒルドはずっと桐斗から貰った指輪を大切にしていた。食事中も寝る時もお風呂の時も。学校のある日も指には付けないもののランドセルの中に隠し持っていた。まるでジークが目覚める前、ジークの眠るサガストーンを大切にする桐斗の様であった。
「ヒルドちゃんって指輪が好きだったんだね。買ってあげた僕としても嬉しい限りだよ」
「ヒルドは指輪に思い入れがあるからね」
「思い入れ?」
「ヒルドってヴァルキリーだけど戦えないというのは前に話したよね?」
「うん」
 ヒルドは勇者神ヴァルキリーの1員であるのに戦闘力が無く、身体能力や精神能力も桐斗と同じ小学生並みである。
「だけど、ヒルドも勇者神として力を持つ事が出来るんだ。ニーヴェルンの指輪の力によってね」
「じゃあヒルドちゃんもファングラムみたいなロボットになれるの?」
「もちろん。レオングニルというロボットになって、ゲイザーレオングニルになるんだ。で、カイザーファングラムとゲイザーレオングニルが合神するとオーディ」
「ネタバレ禁止!! てか北欧神話モチーフの勇者なんだからその後の言葉もろバレじゃん!!」
 自分でモチーフ言うか。
「わからないよ。オーディオファングラムかもしれないし」
「かっこ悪いわ!!!」
「とにかく、そのニーヴェルンの指輪というのを見つければヒルドも勇者神として戦う事が出来るという事だよ」
「でも僕の買った指輪には勇者神としての力が戻るとかの力はないよ」
「私って何をやっても上手くいかないからいつも自信がないの。でも指輪を付けていると自分に自信が持てるみたいなの」
「そうなんだ……」
 実際ヒルドは学校でも神とは思えない程ドジな事をしたり、勉強もスポーツも上手くいかない時がある。そんな時の彼女の悲しい顔を桐斗は何度も見て来た。力が全く無い玩具の指輪でも彼女の心の支えになるのならばそれでいいのではないかと桐斗は結論に達した。
「それでニーヴェルンの指輪ってのはどこにある…………まぁ、どうせいつもの様にわからないんだうね?」
「お、さすが桐斗君! だいぶ俺達の考えがわかる様になってきたねぇ」
 案の定何時もの如く情報は全く無しだった。
「はぁ……やっぱり……」
「テレビでやっているんじゃないかい?」
 ジークはテレビのスイッチを入れた。
「うーん、やっていないねぇ」
「そんなに上手くいくわけないよ」
「テレビ消していい? そろそろ聞きたいラジオあるの」
 2階から姉の美亜がリビングに降りてきた。
「あ、うん」
 美亜はラジオのスイッチをオンにした。
「続いてのニュースです。ワーグナーの歌劇ニーヴェルンゲンの指輪に登場するニーヴェルンの指輪が実在している事が判明しました。これは1800年ドイツ、スラドヴァン村の遺跡で発掘されたもので、第二次世界大戦中同盟国であった日本に秘密裏に渡されていたものでした」
「…………うわぁ……テレビじゃなくてラジオが教えてくれたよ……」
 トールガーディアン、トールランナーのサガストーンの時もテレビが情報を教えてくれた。そして今回はまさかのラジオである。
「このニーヴェルンの指輪は今月末に行われる日本ドイツ友好博で特別展示されますが、現在は月見グランドホテルにて関係者のみに公開されています」
「うわぁ……たまたま偶然にもまた近くで公開されているよ…………」
「さっそく情報が入ったんだ。行かない以外の手はないね」
「うん! これで私も勇者神として戦える!」
「はぁ……これでいいのかな、本当に」





「アナタハカミノソンザイヲシンジマスカ?」
 月見グランドホテルへ向かう街中で3人は突然片言の言葉で呼び止められた。
「いや、俺は無神教でね。神なんてものはこの世に存在していないと思っているよ」
(自分の存在を全否定しちゃっているよ)
「アナタハカミノテンバツヲウケマス! カミサマハイマス! ワタシニハカミサマノスガタガミエマス。ショウネン、アナタノトナリニカミサマガフタリミエマス。アナタタチハカミサマヲシンジナイカラミエナイノデス」
「いや、普通に見えているんだけどね……」





 宣教師を振り切って3人は月見グランドホテルの前に辿り着いた。しかし、ホテルは厳重な警備がしかれており一般人が立ち入る事が出来ない状態になっていた。
「後はホテルに入るだけだね」
「でも招待状もないし、警備が厳しくて進入する事が出来そうにもないよ。でかでかと関係者以外立ち入り禁止と看板まで出ているし」
 某ギャンブル漫画に出てきそうなスーツを着てサングラスをかけた警備員は何故か1人1人関係者以外立ち入り禁止というプラカードを持っていてとてもシュールな光景を出していた。
「関係者以外立ち入り禁止か。こういう時は正直に話せばいいよ」
 そう言うとジークは茂みから出てきて警備員の前に立った。
「君、ここから先は関係者か招待状を持っている者以外立ち入り禁止だよ」
「関係者か……そうさ、俺がジークフリートだ」
――ポイッ
「いや……本当にそれで入れと貰えると思っていたの?」
「次は私がやるわ」
「ヒルドちゃんまで!」
 桐斗の言葉に耳を貸さずヒルドは警備員の前に立った。
「お嬢ちゃん、ここから先は関係者か招待状を持っている者以外立ち入り禁止だよ」
「関係者ね……そうよ、私がブリュンヒルドよ」
――ポイッ
「いったーい、膝擦りむいたー」
「痛そうでかわいそうだけど、それ自業自得だから」
「さぁ、次は桐斗君の番だよ!!」
「私、期待しているよ!」
「いや、僕は全くニーヴェルンゲンの指輪に関係ないから!!」
「そうか。……じゃあそういう時は!」
 エッダホルンを取り出した。
「いや、正義の味方がそれをやっちゃ駄目でしょ!」
「桐斗君、覚えておくといいよ。正義の反対は必ずしも悪ではないんだ。正義の反対は正義なのかもしれない。それはつまり桐斗君から見て悪だと思っても、それは誰かにとっては正義なのかもしれないんだ。だからこうする事が俺のジャスティスなのさ。そして夢を見続ける事が俺のファンタジーだ」
「いやいや……それも正義の味方が言っていい台詞じゃないでしょ……」
 突然ビルの中から爆発音と同時にビルのガラスが割れて地上に落ちてきた。
「ジーク兄ちゃん! まさか本当にやるなんて!」
「いや、俺じゃないよ」
「えっ!? じゃあ今のは……」
「ああ。おそらく巨人の仕業だ!」
「ええっ! トールチーム! こっちに来て!」
 桐斗は腕のアースブレスでトールチームに通信を入れた。
「「「了解!!」」」
 3人は急いでホテルに入り、爆発の起きた階を目指した。





「ふふふ、お宝で幸せゲットだよ!」
 ジーク達が指輪のある部屋に着くと見慣れない男が既に指輪を手にしていた。
「お前、巨人ではないようだな、お前は一体誰だ!?」
 今までのふざけていたジークとは違いまじめモードになったジークはヒーローらしくビシィっと男に向けて指差した。
「私の名はノン、ノン=ラショナルよ。オルゲイト様の命令でこの世界のお宝を頂きに来たわ、よろしく。あなたこの世界の勇者ね? なる程、この世界にも勇者がいたのね」
 ノンと名乗る男は女性の様な言葉遣いをしていた。
「オルゲイト?」
 それは今までに聞いた事の無い名前であった。
「あら?BANで情報が流れていないのかしら?」
 BAN、またもや聞いた事の無い名前である。
「BAN? 一体何の話をしている?」
「あら、BANを知らない勇者もいたのね。これは驚きだわ」
「何の事か全く分からないが、とにかくこの指輪はこの世界の宝だ。返してもらうぞ」
「取り返せるものならやってみなさい。力づくでね」
 そういうとノンは窓を突き破って外に飛び出た。
「ああ。やってみるさ!ファング!」
 ジークも窓を突き破って落ちながらエッダホルンをふいた。
「そこ50階!!」
 ファングが召還され、ジークと一緒に落下していった。
「融合合神!」
 落下しながらジークはファングと融合し、ファングは人型ロボットに変形した。
「地上神ファングラム! カイザーバーン!!」
 天空からカイザーバーンが舞い降りた。
「光牙合神!!」
 カイザーバーンは胸部の無い人型ロボットに変形し、ファングラムが巨大な狼の頭部に変形してカイザーバーンの開いた胸部にドッキングした。ファングラムの頭部にカイザーバーンの頭部が被さり、顔がマスクで覆われて目に光が宿った。
「天空神! カイザァァァファングラム!!!」
――ドォォォン!!
 合神したカイザーファングラムはズドォォォンと両足で地面に降り立った。
――ジィィィィン!
「………………痛ったぁ」
「そら言わんこっちゃない。カッコいい演出が台無しだよ……」
「こ、ここの世界の勇者は随分軽いイメージの勇者のようね……」
 ノンはどこからか現れた巨大な獣の肩にのっていた。
「「「トールチーム参上!!」」」
 ジークがカイザーファングラムになる時間の中でトールチームも変形して月見グランドホテル前に到着した。
「トールチーム、いい所に来た。あいつを止めて!」
「合点承知の助! ランナーホイール!」
 トールランナーが自分の足についているタイヤを投げつけた。
「そんな攻撃効かないわ」
 獣は後ろ足で立ち、前足でランナーホイールを弾き飛ばした。
「バトルレールガン!」
「ドリルナックル!」
 トールガーディアンは肩の銃で、トールファイターは肩のドリルを手に装着して突撃した。
「雑魚は引っ込んでいなさい!」
 獣は両目からビームを出してトールガーディアンとトールファイターに直撃させた。
「うわああああ!!」
「ぐぁぁぁっ!!」
 トールチームは弾き飛ばされて近くのビルに突撃した。
「トールチーム!!」
「カイザーファングラム、気をつけろ。こいつ……強い」
「確かに私は強いわ。そしてあなた達は弱いわ。おーほほほ!」
 ノンは男性だが、まるで女性の様に手を口の近くに翳して高らかに笑い出した。
「くそ、言いたい放題言いやがって」
「グラムセイバー! はあああ!」
 カイザーファングラムはグラムセイバーを召還してジャンプ斬りをした。
「甘いわよ!」
 獣は尻尾でカイザーファングラムごと弾き飛ばした。
「ぐあああっ! カイザーアンカー!」
 カイザーファングラムは弾き飛ばされながら右腕に装着されている爪を飛ばして獣の腕に爪を引っ掛け、ワイヤーに引き寄せられて左腕の爪も装着した。
「カイザークロー!」
 カイザーファングラムは爪で獣を切り裂いた。
「やるわね、これでも喰らいなさい!」
 獣は口から炎の弾を放つが、カイザーファングラムは空を縦横無尽に飛んで炎を避け、地面に刺さっているグラムセイバーを抜いた。
「せいやっ!」
 カイザーファングラムはそのままグラムセイバーを投げつけて獣の腹部に刺さった。
「それで、剣をいただいていいのかしら?」

 獣は腹部に刺さったグラムセイバーを抜いて右手に持った。
「ご心配なく」
 カイザーファングラムは指をパチンと鳴らすとグラムセイバーは消えた。
「グラムセイバー!」
 カイザーファングラムは再びグラムセイバーと叫ぶとグラムセイバーはまた召還された。
「あら、便利ね」
「結構魔力を使うからそんなにやりたくないけどね」
「これで仕切り直しね」
「お願い! 指輪返して! 私の大切な指輪なの!!」
 戦いを遮るようにヒルドがノンに向かって叫んだ。桐斗とヒルドはヴァルキリーが戦っている間に地上に降りていたのだ。
「……ヒルド。指輪を返してくれれば君は見逃すけど、どうする?」
「乗るわけ無いわ。うるさいガキね、私はガキが大っ嫌いなのよ。死になさい!」
 ノンの乗る怪物はヒルドに向かって炎の球を吐き出した。
「きゃ、きゃあああああ!」
 ヒルドは恐怖で目を瞑った。
「ヒルドちゃん! 危ない!」
 桐斗はヒルドを押し倒してヒルドを炎から避けさせた
 そして。
――ムニッ!
 はい、お約束。まぁ、そんな音がする程あるわけではないけれど。
「ご、ごめん!」
「ううん、助けてくれてありがとう。あれ、指輪は?」
 ヒルドが倒れた衝撃でヒルドの指輪は彼女の指から離れて転がっていた。
「あ……」
 指輪は誰かの靴に当たって転がるのをやめた。
「……指輪?」
 男は指輪を拾い上げて眺めた。
「ガラス玉か、ふんっ!」
 男は力を入れると指輪は粉々に壊れた。
「!! …………ひ……酷い……どう……して?」
 ヒルドは大切な指輪が壊されて自然と目から涙が溢れた。
「価値の無いものに存在する意味など無い」
「オルゲイト様」
 獣の上に乗っているノンは男に視線を移してそう言った。
「別の世界でゴキーを世界から消滅させた伝説の殺虫スプレー、ゴッドジェットゴキーを手に入れて時間が余ったから様子を来てみたらまだ手に入れていないのか?」
「申し訳ありません。すぐに終わらせますわ」
「まぁええ、俺が手伝ってやる」
「いえ、オルゲイト様の手を煩わせる程でもないです」
「いや、ページの都合だ。これ以上単体の話を続けられたらただの番外編でクロスオーバーでも何でも無くなる」
「そ……それは確かに。それではお願いします」
「お前がオルゲイトだな。お前達の事はよくわからないが、指輪を返してもらうぞ!」
「お前がこの世界の勇者か、他愛もなさそうだな。ふん」
 オルゲイトが魔方陣を指で描くと桐斗とヴァルキリー全員の足元に同じ魔方陣が浮かんだ。
「な、何だこれは!?」
 トールランナーは足掻こうとするが、足が全く動かなかった。
「身体が動かない」
「はっ!」
 オルゲイトが手をかざすと魔方陣から光が放たれ、光が消えると全員その場から消えていた。
「これで終わった。ノン、行くぞ」
「ええ」
 オルゲイトとノンもこの世界から姿を消した。





…………
…………
…………
…………
…………
…………
「こ、ここは……」
 意識を戻した桐斗は見知らぬ採石場に立っていた。
 そしてジークの周りには白いロボットや、桃色のロボットや胸に角が付いたロボットに囲まれていた。
「ファング! カイザーバーン! 光牙合神!! 天空神! カイザァァァファングラム!!!」
 ジークはファングラム、そしてカイザーファングラムになるとロボット達と向かい合った。
「グラムセイバー!」
 カイザーファングラムはグラムセイバーを召還するとロボット軍団に向かって走った。
「ファングラムー!」
――ガチャンッ!
 続きは映画で。





「その最終回はやめい!」
 自分の叫び声で夢から覚めた。
「い、今のは夢? ……それで……こ……ここは?」
 桐斗が辺りを見渡すと見知らぬ部屋のベッドに寝かせられていた。
「確か……魔方陣みたいなのに飲み込まれて……」
 横を見ると同じベッドにヒルドが眠っていた。この部屋にはもう1つベッドがあり、そのベッドには人が眠っていなかった。おそらくジークは既に起きているのであろう。もしくは……。
「いや、今がどんな状態なのかわからないけど、ジーク兄ちゃんはきっと無事だよ」
 そう心に決めてベッドから降り、部屋のドアノブを回した。ドアノブはすんなりと回転する事から監禁されている状態では無いと理解した。そして警戒しながら桐斗はドアを引き、恐る恐る部屋から出た。監禁こそされていないが突然自分を襲うモノがドアの外にいるかもしれない。もし、そんな危険な状態であればわざわざベッドに寝かせられている事は無い筈だが今の桐斗にそんな事を考える余裕は無い。とにかく危険な存在に気付かれる事こそが最悪なのだ。桐斗には戦う力が無い。そしてベッドで眠っているヒルドも勇者神であるが同じである。ここにジークがいれば限りなく心強いのだがそのジークはここにいない。自分は勇者エインヘリヤルに任命されたのだ。恐れて行動出来ないのでは何も始まらない。
「「乾ー杯!」」
 そんな桐斗の不安をぶち壊すかの様に聞きなれた声が含まれた乾杯という言葉が建物内に響き渡った。
「えっ!?」
 桐斗は警戒をしていたのも忘れて階段を駆け下りた。下の階はそのまま食堂になっていた。
 ジークと見知らぬ男の人とが腕を組んでドリンクを飲んでいた。
「え……何でこんなに仲良しなん?」
「腕相撲で勝負して仲良くなったのさ」
「ジーク兄ちゃんこの人達と知り合い?」
「ううん、全然。今さっき知り合ったばかりだよ。そう、桐斗君が起きる15分位前かな。町外れに倒れていたらしいんだけどこの人が助けてここまで運んでくれたんだ」
「へー、それはどうもありがとうございました。そうだ、トールチームは!?」
「安心しな。お連れの戦車と車とドリル戦車なら宿の外に留まっているよ」
「皆無事なんだ。よかった」
 お連れの戦車ってなんか変な響きだよなーと思いながらも桐斗はトールチームも無事な事を知って安心した。
「それでここはどこなの? 日本ではなさそうだし」
「いやー、まっっったくわからない。さっぱりだよ」
 ジークは何の不安も無いかの様に笑い出した。決して桐斗を不安がらせないような気遣いで笑っている訳では無さそうだ。
「それで何でこんなにのん気なん?」
「あ、ジーク、桐斗いたー!」
 ヒルドが階段から降りてきた。
「あ、ヒルドちゃん起きてきたんだ」
「ねぇ、ここはどこなの?」
「それが僕もわからないんだ」
「むっ!」
 男性は急に真剣な眼差しをした。こちらも自然と真剣な眼差しとなった。そしてジーク、桐斗、ヒルドを順に見て、何度か見た後に視線をヒルドに定めた。
「スリーサイズ教えて〜」
「オマワリさーーーん!!」





 数分後、状況は未だに呑み込めないままだったが桐斗やヒルドも時間と共に落ち着いてきた。そして今は2人ともオレンジジュースを飲んでいる。
(何か旅行に行ったみたいで楽しいね)
 そう思った桐斗だが、すぐにその考えをした事を後悔した。ここがどこなのかわからず、帰る方法もわからない。ジークももちろんの事だが、神でありながら自分達小学生と同じ精神をしているヒルドは絶対に不安を感じている。そんな時に楽しいなんてあまりにも不謹慎過ぎる。口に出そうな所でやめて正解だ。こんな事を言ってしまったら流石のジークも怒るかもしれない。
「いやぁ、どこか遠くへ旅行に来たみたいで楽しいねぇ。そう思わないかい?」
「あんたが言うんかい!!」
 この神様の存在自体が神に対する不謹慎だと桐斗は確信した。いや、今に確信した事ではないけれど。
「それにしてもこれからどうしよう。どうやって戻ればいいか全くわからないし。それに僕達はこの世界のお金を持っていないから生活すら危ういんだよね」
「君達お金に困っているのかい?」
 酒を飲んでいた1人の男が桐斗達に声をかけてきた。
「ええ。この国の通貨を持っていないし、僕達の国のお金が交換できるかわからないので困っているんです」
「だったらちょうどいい。銀髪の君は腕っぷしが強そうだから君にいい仕事がある。これさ」
 男は1枚の紙を取り出した。そしてジークはその紙を受け取って読み出した。
「メイド喫茶ピュアユーリ?」
「あ、間違えた。これこれ」
 男はもう1枚の紙を取り出した。
「ふむふむ」
 ジークは紙を読み出して頷いた。
「なんて書いてあるの?」
「先日フローラル家という大金持ちの家に空賊から予告状が届いた。警備のため力のあるものを募集しているみたいだよ」
 そう言うとジークは桐斗にその紙を渡した。
「本当だ。ジーク兄ちゃんは強いからピッタリだと思うよ」
「別に力を誇示する訳でもないけど、空賊という悪い奴らに襲撃されるのを黙ってみているのもやるせないね。やってみよう」
「ジークやトールチームがいれば悪い空賊なんて簡単よね!」
 ヒルドも自分は戦えないがこの仕事を請けるのに賛成のようだ。
「そうこなくっちゃ。これが地図だよ」
 男はさらにもう1枚の紙を手渡した。
「えーと……」
 桐斗は紙を受け取って場所を確認しようとした。
「……メイド喫茶百合百合屋敷」
「あ、また間違えた。うーん、これはリリ学園喫茶ごきげんようだし、これはカフェ秘密の百合園だし……」
(この人どんだけ百合好きなんだろう……)
 桐斗の心の突っ込みも虚しく男は次々と百合系喫茶店の紙を出した。この世界にはこんなに百合系喫茶店があるのだろうか?
「あった。これこれ」
 十数枚目でようやく地図を発見したようだ。
「どれどれ……」
 その地図は正確なものではなく、フリーハンドで道路が書かれていて目的地に沿って緑色の線が引かれているだけのものであった。
「って、初めて来た場所でこんな地図でわかるわけ無いじゃん……」
 呆れている桐斗の頭の上に顎を置き、ジークは地図を見出した。
「ふむふむ、なるほど。その家は海の上にあるんだね」
「何でわかるの!!? てか、これ目的地のすぐ近くで曲がっているよ、海の上で曲がるの!!」





 空賊船内
「ぼくは空賊!」
「僕も空賊!」
「俺も!」
「私も!」
「某も!」
「「「僕達は空賊さーーー!」」」
「さぁ、れでぃ」
「えっ?」
 ラムは傍観している孔雀の手を取って再び踊りの中に入っていった。
「へぅぅぅぅぅ」
 孔雀は目をグルグルに回しながら回っていた。
 そして踊っている子供達は皆手を繋いで輪になって回転した。みんな同じ姿をしているため誰が誰なのか全くわからない状態である。
「「「空賊さーーーーー!!」」」
…………
…………
…………
「な、何だったんだ? 今のは」
「ミュージカル風にしてみたんだよ」
「いや、だから何でミュージカル風になってるんだよ……」
「でも息ぴったりで凄かったです」
 半分呆れる竜斗とは反対に碧は素直に感動していた。
「まぁ、そこは評価できるよな」
 呆れながらも実際誰が誰か分らないほど息がぴったりだったためそこだけは納得した。
「お前たち馬鹿な事やっているんじゃないよ」
 マリーが1枚の紙を持って部屋に入ってきた。
「あ、ママ。ママも入る?」
「入りゃしないよ。仕事だよ」
 マリーは1枚の紙を見せてきた。
「なんだそれは?」
「予告状だよ予告状」
「予告状?」
 マリーが見せてきた予告状にはこう書いてあった。
――フローラル家の宝をいただきにいざ参上仕り候by空賊。
「どこの言葉だよ……それより予告状なんて出したのか?」
「うちはそんなもの出しやしないよ。そんなもん出したら効率がわるくなっちまう」
「じゃあ一体誰が出したんだ?」
 出してもいない予告状が何故存在するのであろうか?
「はた迷惑な世間知らずのお嬢様だよ。勝手に名前を使うんじゃないよ、全く」
「何故犯人がわかっているんだ?」
「つまり、それが仕事と関係あるって事だろ?」
 竜斗との疑問を陽平が答えた。
「ご名答。今回の仕事ってのはそのはた迷惑なフローラル家のお嬢様の誘拐さ」
「誘拐?」
「このお嬢様は父親が死んでからお母様が自分に構ってくれず、家宝の指輪ばかり気にしているのにご不満だそうだ。それでこの予告状を出したというわけさ」
「つまり、フローラル家の宝というのはアイネで、彼女を盗めばいいという事か?」
「そういう事さ。指輪だと思って指輪を護る母親を滑稽に思いながら家を出て行くという事らしい」
「寂しいのは可哀そうだけど、その方法はあまり感心しないな」
「しっかし、予告状を出したり本物に偽装誘拐をさせるなんて大それたお嬢様だよなー」
「いや、アイネの待遇を不憫に思った執事の入れ知恵らしい。まぁ、誰が入れ知恵や依頼なんてどうでもいいのさ。依頼料がかなり良かったから引き受けたのさ」
「俺達にもそれを手伝えという訳か?」
「好きにしな。だが、フローラル家の家宝の指輪ってのは金を生み出すレインボーリングだって噂でね。警備をかなり募集したらしい。アタシらだけじゃこの船がやられちまうかもしれないがね。船を無くしたくなけりゃ働きな。さて、これより船はフローラル家に向けて飛ぶよ。ほら、早く舵を変えな」
「はぁ〜い! わっかりましたぁ!」
 そして飛行船はフローラル家へと舵を変えて飛び出した。





「孔雀ちゃんいた!」
 フローラル家への途中ウィスキーは孔雀に声をかけた。
「え、私ですか?」
「そう。孔雀ちゃんに用があったの」
「用事?」
「これを着て」
 ウィスキーは孔雀に一着の服を差し出した。
「お洋服?」
「何か知らないが孔雀を変な事に巻き込むなよ」
 孔雀の近くで手裏剣の手入れをしていた陽平がコブンに不審な目を向けた。
「それは孔雀ちゃん次第だよ」
 ウィスキーはそう言って蝶ネクタイを取り出した。
「孔雀、着ろ」
 ウィスキーが蝶ネクタイごしに喋った声は何故か陽平の記憶に鮮明に残っている声であった。
「な……何でにあいつの声を出せるんだよ……」
「おじいちゃんの発明だよ。光海お姉ちゃんから孔雀ちゃんを動かすにはこの声を出せばいいって教えてもらったんだ」
「だ、騙されましぇ……!」
――ガリィッ!
「うわぁ、痛そう……」
 孔雀は勢い余って舌を噛んでいた。
「へぅ、た、確かに釧様の声ですが、声だけで釧様と判断して動く筈がありません!」
「えー、じゃあどうすればいいの?」
「孔雀なら普通に着てくれと言えば着るんじゃないのか? 理由にもよるけど。で、何で孔雀にその服を着て欲しいの?」
「今回の任務には孔雀ちゃんが必要なんだ。孔雀ちゃんじゃないとこの服は似合わないんだ」
「服と誘拐が何の関係があるんだよ……で、孔雀は着るの?」
「私の力が必要でしたら協力します」
「な、孔雀はそういう奴なんだよ」
「ありがとう。じゃあさっそく着てよ」
「はい」
 孔雀は服を持って更衣室に走っていった。陽平はウィスキーが放って地面に落ちている蝶ネクタイを手にした。
「それにしても声が変わるなんて凄い発明品だな。バーロー、バーロー」





 数分後。
「神よ、影も形もない事をお許しください」
「バッチリ決まっているよ。怪盗セイント孔雀だ!」
 怪盗姿の孔雀姿を見てウィスキーは目をウルウル輝かせていた。
「いいのか……いろんな意味で。ってかそんな服よく持っていたな?」
 この船の中の誰かの趣味という訳でもなさそうである。
「依頼人が渡してきたみたいだよ。これを着て会えって。私のお気に入りです、大切に扱ってくださいって手紙を添えて」
「なんじゃそりゃ……」
 一体どんな執事なんだ?陽平の胸の中には不安しか生まれてこなくなった。
「もしそれが気に入らなかったら神風」
「いや、それ以上は言わなくていい……」
 陽平は更に疲れた表情をした。





 フローラル家
 フローラル家では各地から集められた傭兵が部屋に集められた。ゴーレムを持ってきた傭兵は外の庭でゴーレムに乗って待機していた。
「守れば報奨金がたくさん出るんだ、盗まれてたまるか!」
「賊は俺が捕まえる!」
 今回の報酬金がよく、空賊を倒したものには更に多額の報酬金が出るためどの傭兵も意気込んでいた。
「みんなすごい意気込んでいるよね。でも、僕達も負けていられないよ。頼りにしているからね、ジーク兄ちゃん。ってあれ、ジーク兄ちゃんは?ヒルドちゃん知らない?」
「えっ? さっきまではいたわよ」
 桐斗とヒルドがキョロキョロ辺りを見渡すが、ジークはどこにもいなかった。
「僕が目を放した隙にいなくなっちゃった……嫌な予感しかしないんだけど、こんなよくわからない場所でマイナス思考はいけないよね。うん、ジーク兄ちゃんはきっと他に危険な箇所が無いかを調べているんだ。決して厨房で勝手に料理を作っている事なんてないんだ」





 そしてフローラル家厨房では。
「へー、ここでソースを入れるとこんなにも違うんですか」
「うん。ソースはやっぱり入れるタイミングが命だからね」
 ジークがコックに混ざって料理を作っていた。
「これで奥様も喜びます。何よりアイネ様が喜ぶ顔が見てみたいです。あ、アイネ様というのは奥様の一人娘です」
「へー、この屋敷に娘さんがいたんだ。それらしき雰囲気は全然無かったけどね」
「おそらくお部屋にいるのでしょう。それにしても……アイネ様は可哀想です」
「何かあったのかい?」
「アイネ様は最近全く笑わなくなりました。以前は明るい笑顔の女の子だったのに。旦那様が亡くなって以降奥様のお仕事が更に忙しくなりアイネ様と接する時間がなくなってきました」
「ふーん、お金持ちにも色々家庭事情があるんだね」
「あ、でも俺奥様の意外な一面を見ちゃいましたよ」
 一人のコックがキャベツの千切りをしながら会話に入ってきた。
「意外な一面?」





「用心棒なんて柄にねぇ事引き受けちまって」
「でも給料がいいんだよ。やっぱりこの人数だとそれなりに金もかかるし、この世界が自前調達だけで何とかなる程原始的な世界じゃなかったんだから金が物を言うからね」
 フローラル家屋敷内の警備員の中オルゲイトによって分かれたもう1組の勇者達がいた。彼らも資金源を得るために報酬の良いこの警備の仕事を引き受けていたのである。
「そういえばラシュネスはどうしているんだ? 外で警備しているのか?」
 当然この場にラシュネスがいないので志狼はユーキに尋ねた。
「ラシュネスならもう寝たよ。ゴーレムの格納庫があったからそこを貸してもらっているんだ」
「ふーん。もう9時過ぎている時間なんだろうな」 
「ねぇ、志狼」
「ん? どうした?」
 今度はエリィが不自然な所に気付いて志狼の肩を指でつついた。
「あの子達も用心棒なのかな?」
 エリィの視線の先には茶髪の男の子と金髪の女の子がキョロキョロと辺りを見回していた。2人とも小学生位の年齢でとても傭兵としてこの警備の仕事を請けたという訳ではなさそうだった。
「用心棒って感じじゃなさそうだな。まぁ、見た目で判断するのは危険だけど」
「何か困っているみたいだね」
「ここには危険そうな奴も多いしな子供2人だけにしておくのもちょっと気が引けるな」
「声かけてみよっか?」
 エリィは志狼の答えを聞く前に子供達の所に行った。
「君たちどうしたの? 何か困った事でも起きたの?」
 エリィは子供達の目線に合わせるために屈んで話しかけた。
「一緒にここに来たお兄ちゃんとはぐれてしまったんです」
「それは大変ね。お兄ちゃんはどこにいるかわからないんだよね?」
「まぁ……だいたい検討は付いているんだけど……まぁ、そこにいて欲しくないんだけどね……」
 男の子は何故か半分呆れた顔をし出した。
「そうね。行動が読めるだけにあそこにだけはいて欲しくないよね」
 男の子に続いて女の子も呆れ顔になってきた。そんなにはぐれたお兄ちゃんというのは困った存在なのであろうか。
「? と、とにかく君達2人だけポツンといたら危険だから私達の所にこない?」
「でも知らない人と青いツナギを着たいいオトコにはホイホイ着いて行くなとこの前先生が言っていたし」
 茶髪の男の子はそう言い、行くべきか否かを悩んでいる様だ。
「何だよ、青いツナギを着たいいオトコって……」
 行方不明のお兄ちゃんだけじゃなくてこの2人も困った存在なのではないのかと志狼は思い始めてきた。
「でも、こっちの彼女は来る気満々みたいよ」
「お姉ちゃん、私、ヒルドっていいます」
 ヒルドはエリィの両手を取って自分の名前を言った。
「お姉ちゃんねぇ、まぁ、似ていなくもないな。2人とも金髪だし。で、そっちの少年はどうする?」
「ヒルドちゃんが来るなら僕も行きます。僕は駆羽桐斗です」
「俺は御剣志狼。で、こっちが」
「エリス=ベルよ。よろしくね」





「で、つれてきたのですか……あなたは本当につれてくるのが好きですね」
 つれてきたシリーズもよろしく。と勝手に宣伝。
「まぁ、正解かもね。いかつい奴らばかりの中で子供を放っておいたら危険だし」
 トーコが辺りを見るとやはり変わらず厳ついおっさんや漢ばかりだった。実際の戦闘力を除けばいかに自分達が場違いな場所にいるのかわかりやすい。まぁ、こちらにも漢のパパ2名はいるのだが。
「へへへ、見ろよ。ガキや女が交じってるぜ」
「あんなの足手まといにしかならないだろ」
 何人かの用心棒は志狼達を見て笑っていた。人は見た目だけでは判断出来ないものだが、やはり厳つい男達にも自分達が滑稽に映る様である。
「スリーサイズ教えて」
 突然1人の用心棒が翡翠に声をかけてきた。
「不潔です。やりますか?」
「ああ。翡翠に何かあったら陽平に殺されるからな」
「…………」
 志狼、楓そして終始無言の釧は一気に翡翠に声をかけてきた男に近付いた。そして。
――ドガッ!バギッ!ドゴッ!グシャァァァッ!!
――チーン!
「ざっとこんなものでしょうか?」
「だな」
 1人の変態の無残な姿を見て厳つい男達は考え方を変え始めていた。
「おいおい、あれはかの有名な用心棒、ウー=レジンじゃないか」
「あのウーが簡単にやられるなんて……あいつら一体何者なんだ?」
「全く、とんでもない変態がいたな」
 変態の愚考に呆れた志狼だったがすぐに違和感に気付いた。
「ん、翡翠がいないぞ!」
「ええ!?」
「ど、どこに行った?」
「多分私達がフルボッコをやっている内にこの部屋から出たのでは?」





「きゃ、きゃあああ!」
――ガシャァァァン!!
 少女の悲鳴の後にガラスの割れる音が屋敷内のとある部屋の外まで響き渡った。
「だ、誰だ!?!」
 音に気付いて廊下を警護していた警備員が部屋に飛び込んできた。
「ん? 誰もいないぞ」
 警備員が部屋を見渡すが部屋にはガラスが割れているのとダンボールしか無かった。
「おかしいな、誰かいた声がしたのだが……。気のせいかたぶんこのボールが飛んできてガラスが割れたのだろう」
 辺りに変な様子が無いと思った警備員はそのまま部屋から出て行った。
「危なかったですが潜入成功です。ボールがあって助かりました」
 ダンボールから孔雀が出てきて、孔雀はジャンプして天井裏へと入っていった。





「ここが言われた部屋ですね」
 孔雀は天井裏を蔦って言われた部屋に入って行った。
「えいっ!」
――ゴンッ!
 孔雀は華麗にシュタッと床に着地しようとしたが、床に滑ってゴンッと着地失敗した。
「へぅ、痛たたた……」
孔雀はすぐに立ち上がり、打ち付けた頭をさすった。
「誰ですか?」
 部屋にいた少女が振り返って孔雀を見た。
「ひゃあ!」
――ゴンッ!
 急に声をかけられた為孔雀は驚いて転倒し、再び頭を打った。
「あなた……もしかして空賊さんですか?」
「は、はい。」
「ではお願いします。まずは私をこの屋敷から出してください」
「でも本当にいいんですか?アイネさんがいなくなったらお母様も心配しますよ」
「いいのですよ、あの人は結局指輪にしか興味がありません。そんな人を見るのだって嫌です」
「そんな言い方……!」
 孔雀は近付いてくる小さな足音に気が付いた。
「どうかしましたか?」
「だ、誰かがこの部屋に近付いて来ています!!」
「え?」
 2人は意識を集中させて部屋の外の音を聞いた。部屋の外には執事であり、今回の首謀者でもあるナンクがアイネの警護として立っていた。
「どうしてお嬢ちゃんみたいな子がこんな所に? あー、そのバッジ。お嬢ちゃんも警備員なんだ。え? この部屋に入りたいって?いや、この部屋は警備員でも入れるなって奥様から言われていてね。どうしても? うーん、お嬢ちゃん可愛いから特別だよ。あ、そうだ。ここに運命ちゃんのバリア上着があるんだお嬢ちゃんのサイズにぴったりだから着てみて……」
――ガチャ
 ナンクの言葉の途中で部屋のドアが開いた。。
「へぅ!」
 孔雀は急いでダンボールの中に隠れた。
 その直後、部屋のドアから誰かが部屋に入ってきた。
「誰?」
 孔雀はダンボールを持つために開いている穴から覘くと部屋に入ってきたのは翡翠だったようだ。
(あれは翡翠様? ご無事だったのですね。それよりどうして翡翠様がここに?)
――ジィーーーー
 翡翠はジィーっとダンボールを見た。ダンボール全体では無く穴に注目して。
(バ……バレてます?)
 翡翠は目線をアイネに移してグッと顔を近づけた。
「えっ、ちょっと……」
 そしてアイネの目をじっと見つめた。
「あなた、泣いている」
 翡翠はアイネに話しかけた。
「え? 私は泣いていないけど」
――ジィーーーー
 再び翡翠はダンボールの穴に視線をやった。
(バレてますよね? 絶対にバレてますよね)
 また視線をアイネに戻し、顔を近づけアイネを見つめた。
「ちがう、こころが」





「孔雀ちゃんは上手く侵入できたのでしょうか?」
 不安になっている碧の横で黄華は望遠鏡の様な物で屋敷を見ていた。
「うん。屋敷には上手く入ったよ。ガラスが割れる音がして警備員が来たけどダンボールの中に隠れて気付かれなかったみたい」
「孔雀ちゃん凄い。さすが忍者軍団の一員ですね!」
「というか……スネー孔雀?」
「だな」
 竜斗の言った事に陽平が賛同した。





「ふぁぁぁぁ……暇だな」
 屋敷の外を警備していたゴーレムのパイロットは何も起きない為に退屈になりあくびをした。
「おいおい、こんな時に気を緩めていたら空賊が来たときまともに戦えないぞ」
 ゴーレムの隣に立っている別のゴーレムのパイロットが注意した。
「おっ、こりゃすまねぇ。意気込んでいたが何も無くてつい気を抜いちまった。反省反省」
 パイロットはゴーレムを操縦して自分のゴーレムの頭部を軽く小突いた。
「そんなことよりも、あれは何だ?」
「ん……あれは!!」
 用心棒が弾の来た方向を向くと飛行船がこちらに向かって飛んできていた。
「く、空賊が来たぞぉぉぉ!!!」
 男が叫ぶと外にいる用心棒は一斉に空賊がいる方向を見て銃を向けた。
「撃て! 撃ち落せ」
「報酬は某がいただく!!」
 ゴーレム達は飛行船に向けて一斉に射撃してきた。





 空賊サイド
「おい、撃ってきたぞ!」
「でも、私達は空賊の味方として攻撃しないと決めましたし」
「でもこのままだと落とされちゃうよ」
「ふふふ、慌てるな。こういう時はワシの発明品の出番じゃな!」
 攻撃を受けてどうするか考えている碧や黄華の横にバノブルーが颯爽と登場した。颯爽登場、銀河美老人!バノブルー!いえ、ただ書きたかっただけです。意味はありません。
――テケテテン!
「僕の事を好きにならない奴は嫌いになっちゃうぞ・カイ!」
「それ何に使うんだよ……」
 と、陽平。
「…………熱い物は苦手だぞ・ファイ!」
「何に使うのさ?」
 と、柊。
「な、ならば!」
「最初に言っておく。あんまり印象に残っていないんだぞ・デルタはいらないからな」
 と、竜斗。
「う……」
「プサイもオメガも無しですから」
 ガックシ。
「ワシの……ワシの発明が……」
「元気出して、これも乾って奴の仕業なんだから」
 黄華がうな垂れるバノブルーの肩をポンポンっと優しく叩いた。
「というか、ごまかすぞ・オメガは全く役に立たないとは限らないのでは?」
「全く使えないじじいだね、テキーラ、ラム行ってきな」
 今までバノブルーの発明品お披露目を黙ってみていたマリーはコブンに出撃命令を下した。
「おぉけぃ。ラム、ていくおふ!」
「テキーラ、アラクネいきまーす!」
 ラムの乗るスカルヘッドが飛行船から飛び出し、テキーラの乗るアラクネは飛行船から領地内に着陸した。
「ふぁいやー!」
 スカルヘッドの機銃が空からゴーレムを攻撃し始めて空賊と用心棒の戦いが始まった。





 空賊と用心棒が銃撃戦を展開している時、1人の男が屋根の上で戦いを眺めていた。それはジーク達の世界に来ていたノンだった。
「ふふふ、やっているわね。今回のお宝は金を生み出す指輪レインボーリング。それじゃあ私も参加させてもらおうかしら。はぁぁぁぁっ!」
 ノンは1体の警備ゴーレムに視線をやり、念を送り込んだ。
 すると突然そのゴーレムが持っている剣で隣のゴーレムを斬り付けた。
「馬鹿、何やってんだよ!?」
「わからねぇ、操縦してないのに勝手に動くんだよ!!」
「何訳のわからない事を……うわああああ!!」
 男の乗るゴーレムは剣で突き刺されて爆発した。
「くそ、止まれ! 何で勝手に動いているんだ!」
 男がいくら操縦レバーを動かしてもゴーレムが操縦者の思い通りには動かなかった。
「畜生、脱出する!」
 幸い脱出装置は正常に作動しており男はゴーレムから脱出した。しかしゴーレムは操縦者がいなくても勝手に動き、暴れている。
「あいつら仲間割れしてる!! な、何だ動かなねぇ!」
 別の所を警備していたゴーレムも異変に気づいたが、そのゴーレムもまたノンによって操られた。
「さぁ、いきなさい! お宝をいただくのよ!」





「外が騒がしいな」
「おいっ、空賊が来たみたいだ!」
 窓から外を覘いてみると空賊によって次々とゴーレムが倒されていった。
「それに……警備についているゴーレム同士でも戦っていますね」
「これはマズイな。俺行って来る! 中は頼んだぜ!」
「私も行って来ます!」
 志狼と楓は部屋を飛び出して行った。
「あんたは行かないの?」
 トーコはレクスに言った。
「こんなのは俺が行くまでもないからな」
「あ、そう」
「え、あの2人はどこに行ったのですか?」
 状況が今一わからない桐斗は尋ねたが、すぐに窓から2体の巨大なロボットが現れるのが見えた。
「雷獣合体! ヴォルライガー!」
「クウガ!」
 そして1つ身近な例があったためそれに当てはめて仮説を立てた。
「ファングラムみたいなロボットが! もしかして志狼さんと楓さんが?」
「ええ。そうよ」
「じゃあジーク兄ちゃんもお願い!!」
 桐斗はビシッと指を立てた。
…………
…………
…………
「ど、どうしたの? 桐斗君」
 桐斗がいかにも少年主人公っぽくかっこよくビシッと指を立てたのにも関わらず何も起こらなかった為エリィは思わず桐斗に尋ねた。
「しまったぁぁぁ! ジーク兄ちゃんは行方不明だった。おのれぇ、役立たずめ。トールチーム、お願い!」
 桐斗はさぞ悪役が言いそうな言葉を放った後、アースブレスの通信をオンにしてトールチームに出撃を要請した。
「「「了解!!」」」
「桐斗君、君は?」
「僕やヒルドちゃんは戦えないけど、僕の仲間は戦えるんです」
 桐斗の腕に付いているアースブレスがキラリと意味も無く光った。アースブレスには自爆ボタンの雰囲気を味わえる機能の他に発光機能(要、単4電池2本)も付いています。





「「「チェーンジ!」」」
 トールチームはビークルから変形してロボットになった。
「守護神、トールガーディアン!」
「高速神、トールランナー!」
「攻撃神、トールファイター!」
「よし、いくぜみんな!」
「お前が仕切るな!」
「そうですよ! トールランナーが仕切るといつもろくな事がないのですから!」
「いいじゃねぇかよ! ノリが必要な時だってあるじゃねぇか!」
「さっさと合神する!!!」
 桐斗のツッコミが通信として入ってきた。今の桐斗の苛立ちは神をも恐れさせるものであった。
「「「はいっ!!」」」
「じゃあ合神するぜ!」
「「だからお前が仕切るな!!」」
「「「轟雷合神!!」」」
 トールガーディアンが胴体、トールランナーが2つに分かれて両腕、トールファイターが脚部に変形し、3体は合体した。
「戦騎神! トォォルウォォォリア!!!」
「ゴーレム!」
 ゴーレムの1体がトールウォーリアに向かって突撃してきた。
「ミョルニルハンマー!」
 トールウォーリアはミョルニルハンマーを召還した。
「喰らえ! ミョルニルハンマートマホーク!!」
 トールウォーリアはミョルニルハンマーをぶん投げて突撃して来るゴーレムを叩き潰して機能を停止させた。
「俺の名はトールウォーリア、桐斗の知り合いだ。加戦するぜ!」
 トールウォーリアはヴォルライガーとクウガにそう自己紹介した。
「助かります」
「桐斗の知り合いにも勇者がいたんだな」





 空賊船からもヴォルライガーとクウガが現れたのは確認できた。
「あれはヴォルライガーとクウガ!」
「あいつら無事だったのか!?」
「多分他の皆も無事でしょうね」
「死ぬ訳ないと思ったけどやっぱり安心しました」
「てか、マズイぞ。ヴォルライガーやクウガを相手にしたらラム達が危ない!」





――ガッシャァァァン!
 空賊、用心棒、ノンの戦いは屋敷を破壊し、厨房でも衝撃の揺れによって皿や料理が床に落ちた。
「料理が……俺のつくった料理が……空賊め、許さん!! エッダホルン!」
 ジークはエプロンのポケットからエッダホルンを取り出して吹いた。
――ブオオオオ!
「融合合神!」
 ジークは召還されたファングと融合し、ファングはロボットに変形した。
「地上神ファングラム! カイザーバーン!」
 空からカイザーバーンが舞い降りた。
「光牙合神!!」
 ファングラムは巨大な狼の変形し、カイザーバーンと合体した。
「天空神! カイザァァァファングラム!!!」
 ジークが場所を考えずにカイザーファングラムになったため厨房の天井がぶち抜かれた。
「こんなところで巨大化しなくても……」
「あぁ、厨房がもう使い物にならなくなった……」
「そういえば今の人って用心棒で雇われた人じゃなかったか?戦いに行ったのはいいけど、今まで何でここにいたんだ?」
「警備……かな?」
「普通に料理作っていただけだったが……」
「エプロンのポケットからホルン出してたが……」
「ああ。明らかにホルンの方が大きかったよな……」
 コック達の謎は深まるばかりであった。





 アラクネとヴォルライガーが対峙している。
「当たれぇぇぇ!!」
 アラクネの砲台から大砲が発射された。
「ライガーブレェェド!」
 ヴォルライガーはライガーブレードで大砲の弾を真っ二つにした。
「はあああ!」
「うわっ!」
 ヴォルライガーは突撃して接近し、アラクネを蹴り飛ばした。
「もらった!」
 そのままライガーブレードを振り下ろした。
「やめろ!!」
――ガキン!
 何者かが刀でライガーブレードを受け止めた。
「お前は……ヴァルフウガ!! まさか陽平か!?」
「ああ。そうだ」
「陽平、何故こんな所に!?」
「いや、まぁ色々事情があってだな……」
「何故お前が空賊なんかの味方に!?」
「まぁ、それも色々と事情があってだな……」
「いつかやると思っていたわよ」
 屋敷からエリィの通信が入ってきた。
「な、何でここまで声が聞こえるんだよ?」
「レクス先生のおかげよ」
「俺に出来ない事は無いからな。って魔力の無駄遣いさせるなよ……」
「その声、あんた誰だよ?」
 聞きなれない声に陽平は困惑した。
「それより陽平、モザイクと音声処理準備は万全だから」
「そうそう。安心しなさいよ」
 姉弟からの音声も聞こえてきた。
「……てぇめぇら……」
「陽平、お前見損なったぞ!」
「だから見損なわれても仕方ないかもしれんが色々と事情があってだな……」
「先輩、最低です」
「アニキがこんな風に落ちぶれるなんて」
 空賊船にいる柊も通信を使って会話に入ってきた。
「いやいやいや、柊、お前も空賊の味方しているだろ」
「ぼ、ぼくはこのおにいさんに言われてやっていただけなんです! 本当です!」
「声色まで変えて適当言ってんじゃねぇッ!」
「どーでもいいから話を前に進めろよ」
 最初に陽平を攻めていた志狼も流石に呆れてきて先に進んで欲しい気持ちになってきた。
「俺だって進めたいよ! そろそろ進めてもいいよね?」
「あー、そうやって話を逸らそうとする! アニキは最近の政治家かー!?」
「政治家じゃねぇ! 忍者だ! てかいい加減話進めないとマジで文字数だけ長くて中身がねぇ作品になっちまうぞ」
「先輩、もう手遅れです」
「……確かに」
 皆の中でも確かにという雰囲気の空気になってきた。
「と、とにかく! いい加減言い合いは後にしようぜ」
「そうです。まずは暴走しているゴーレムを止めるのが先です」
「そういえばさ、陽平」
 志狼が何かを思い出したかの様に陽平に語りかけた。
「ん?」
「翡翠がいなくなったんだ」
「何ぃぃっ!? くだらないイジメなんて言ってないでそれを先に言えっての!!!」
「ここは俺が引き受ける。だからお前は翡翠を見つけるんだ。多分屋敷の中にいる筈だから」
「あ、ああ。ここは頼んだぜ」
 陽平はヴァルフウガから降りて屋敷に向かって行った。





「待てぇい!!」
「ん、誰?」
「至福の時を邪魔され怒りに燃える男、カイザーファングラム!!!」
――タッタラー!タタラ!
「何だよ、あいつ……」
 カイザーファングラムは最初空賊の方を向いていたが、屋根の上に見知った顔がいるのに気付いた。
「ん、あー! お前はノン!」
「あら、カイザーファングラム、生きていたのね」
「ニーヴェルンの指輪を返せ!」
「返せと言われて返す馬鹿がどこにいるのかしら? ゴーレム達、やっちゃいなさい!」
「ゴーレーム!」
 ノンに操られているゴーレムはカイザーファングラムに突撃してきた。
「自分でゴーレムと言うんだな。グラムセイバー!」
 カイザーファングラムはグラムセイバーを召喚した。
「たあっ!」
――ザシュッ!
ゴーレムはグラムセイバーに斬られて横真っ二つになった。
「ああ、まだローンが15年残っているのに……」
 破壊されたゴーレムの所有者は愕然とうなだれた。
「くそ、あんた達、どんどん行きなさい! 数で圧倒するのよ!」
「おい、それ俺のゴーレム! やめろ! 行くなー!」
 ゴーレムの所持者がいくら叫んだ所で暴走するゴーレムが止まる事は無かった。そして。
「喰らえ!」
――ズバッ!!
 次のゴーレムは頭部を切断されて爆発した。
「街の福引で当てた俺のゴーレムが!」
 当初カイザーファングラムの存在に不思議っていたヴォルライガーとクウガであったが、ハッと我に返った。
「躊躇している場合じゃない、俺達もいくぞ! はああ!」
「ああ……俺のゴーレムが……」
 ゴーレムがライガーブレードに貫かれて爆発した。
 回想モード
「これは父さんが昔戦いで使っていた機体だよね、俺なんかが使っていいの?」
「ああ。次の時代はお前達若い者が作る。この機体を新しい時代のために使ってくれ!」
 回想終了
「ああ……さようなら……俺の……父さんの形見」
「喰らいやがれ! ドリルスパイク!!」
 トールウォーリアは右膝のドリルでゴーレムの身体を貫いた。
「このゴーレムは軍の横流し品だが、数あるなかでこのゴーレムだけが目で私に訴えてきたんですよ……それからずっと私と共に戦場を戦ってきた私の相棒です」
 ゴーレムはクウガに向かって矢を放ったが、クウガは縦横無尽に跳躍して矢を全て回避した。
「当たりなさい!!」
 ゴーレムはクウガの回し蹴りによって横真っ二つ切断され爆発した。
 回想モード
「私と平和のための戦い、どっちが大切なの?」
「答えられないの? もういいわ、私達これで終わりね」
「ふ、俺にはお前だけになっちまったな。改めてよろしく頼むぜ、相棒」
 回想終了
――ドォォォォンッ!
「ふ、とうとう俺だけになっちまった……」





 屋敷内
(うえーん、アイネさんを連れて来いと言われていますが翡翠様がいると行動できません。無理やり行って翡翠様に何か粗相をしてしまったらそれこそ一大事です」
 翡翠がアイネと話し込んでしまったためセイント孔雀はダンボールの中で何も出来ない状態でいた。
(へぅぅぅぅ、ここ狭いです、暗いです。釧様助けてください)
「だれかきた?」
 それまでアイネと会話していた翡翠はピタリと止まり、耳をすました。
「え、また?」
「また?」
「い、いえ、何でもありません」
アイネは孔雀がいた事をごまかして意識を集中させると部屋の外からまた足音が聞こえてきた。
「奥様、どうしてここに?」
「通してちょうだい」
「は、はい」
 ナンクがノブを回ししたためドアが開かれ1人の女性が部屋に入ってきた。
「お母様!?」
 部屋に入ってきたのはアイネの母親であり、現在この屋敷の主人レリアだった。
「……ダンボール?」
 部屋には2つのダンボールが床に置いてあった。
「お母様、どうしてここに?」
「アイネ、何なさっているの? あなたは将来立派なレディになって社交界にでなければなりません事よ。そのためには今の内から教養や知識をつけておく事が大切です」
「でもお母様、こんな時にまで」
「どんな時でもです。第一あなたの物ではない指輪の事なんてあなたには関係ないものです」
「そんな……」
「言い訳や口答えなどは聞きません。人前で涙を流す事はレディの恥です。絶対にやめなさい」
「は、はい……」
(ど、どうして……昔のお母様はこんな人じゃなかった)
「うっ……けほけほっ!」
 レリアは突然咳をして苦しそうに胸を押さえた。
「お母様!」
「な、何でもありません。私の事は気にせずに机に向かいなさい」
「で、でも……」
「私の言う事が聞けないのですか!?」
「わ、わかりました……」
 アイネはしぶしぶ机に向かった。





 空賊船
「オルゲイトの仲間が相手なら俺達もいくぞ!」
「はいっ! 竜斗さん!」
「楓ばかり活躍されたら何か納得いかない。おいらも行くぜ!」
「ロードエスペリオン!!」
「リミュエールペガサス!」
「ロウガ!」
 勇者達が空賊戦から飛び降りて地面に着地した。そして何故か戦っている勇者たちも一斉に屋敷の前に集結した。
「「「「「レインボーリングは俺達が渡さない!!!」」」」」
 妙にCGで。
 …………
 …………
 …………
 …………
「何言ってんだ……俺達……」
「何か違う……」
 作者とテンションです。
「あらあら、皆さんおそろいね。ならばこちらもパワーアップよ。ゴーレム、やりなさい!」
 ノンに操られたゴーレムが1箇所に集まって1体の巨大なゴーレムに融合した。
「合体しただと!!?」
「ゴーレムデラックス、やっちゃいなさい!」
「ゴーレェェェム!!!」
「え? やっぱりゴーレム言うの?」
 ゴーレムデラックスはロケットパンチをロードエスぺリオンに飛ばした。
「その程度の攻撃なんぜ効かねえよ……何!?」
 ロードエスペリオンはロケットパンチを受け止めたがロケットパンチは自爆した。
「ぐああああっ!!」
 ロードエスペリオンは爆発に巻き込まれた。
「ああ、今のは俺のゴーレムだった!! 畜生、この前買ったばかりの新品なのに!!」
「竜斗さん!!」
「くー、痛てて」
「大丈夫ですか?」
 ロードエスペリオンは爆発の中で踏ん張って倒れる事は無かった。
「ああ。俺はこの程度ではビクともしないぜ!」
 ゴーレムデラックスの腕から別のゴーレムの身体が生え出してそれが腕になった。
「今度は僕のゴーレムだし!! 絶対ロケットパンチなんて使うなよ!!」
「ゴーレーーム!!」
 ゴーレムデラックスの身体中からロボットの頭部が浮き出てきた。
「ゴーレーーーム!!」
 身体中に付いている頭部が一斉に勇者たちに向かって飛んできた。
「同じ手には喰わない!」
「竜斗さん、ここは私に任せてください。リフレクトシールド!」
 当たりはシールドに包まれ、頭部はシールドに当たって爆発していき、勇者達は無傷だった。
「助かったぜ、碧」
「ありがとう。全く、悪しき魂に天罰を喰らわせる気か。反撃だ! アークインパルス!!」
――ガキン!
 グラムセイバーから放たれたエネルギーのアークインパルスはゴーレムデラックスに当たったが、弾かれた。
「くそ、合体して装甲があがっているか……」
「皆の技を一点に集中して攻撃すれば倒せるのではないでしょうか?」
「やってみる価値はあるな」
「よし、いくぜ!!」
「いくよ、楓」
「ええ!」
「「双王式忍者合体!ラグナフウガ!!」」
 そして柊が続けた。
「ついでに一気に参式!」
「「「やめろぉぉぉぉぉ!!!!」」」
 ゴーレムの所有者の悲痛な叫びはもう(最初から)勇者の耳には届いていなかった。
「アークインパルス!!」
「ミョルニルハンマートマホォォク!!」
「鳳之息吹!!」
「リュミエール・サンクチュアリ!!」
「御剣流奥義! 轟雷斬!!」
「ロードクルスノヴァ!!」
 ゴーレムは次々に勇者達の必殺技を受けた。
「ゴ……ゴォォレェェェェム!!」
 ゴーレムデラックスは連続の必殺を受けて大爆発を起こして消滅した。
「うわああああ!!! ゴーレムがぁぁぁぁ」
「俺のゴーレム!!」
「俺の愛機アリッサァァァァ!!」
 愛機を失った傭兵達の悲痛な叫びが辺り一面にこだました。
「やはり雑魚は合体しても使えないわね、まぁいいわ、今のうちよ」
 ノンは誰にも気付かれない内に屋敷に飛び込んだ。





「勝った! 皆が勝ったよ!」
「ジークも凄いけど、なんかよくわからない皆も凄い!」
 桐斗とヒルドはテンションが上がって2人でハイタッチした。
「これで宝は護りきったのかな? 空賊だって陽平君や竜斗君がいるんだからそんなに危険じゃないと思うし」
 エリィが少し安心した表情をした。
「ちょっと待って、何かがこっちに来る!」
 エリィと反対にトーコの表情が更に険しくなった。
「えっ?」
――ガシャァァァンッ!
 窓ガラスが割れて外からノンが屋敷に侵入した。
「レインボーリングは私が貰うわ。どうせ強い人たちはみんな外に行ってここは弱い人達ばかりでしょ?」
「そうはさせない。志狼にここは任せろと言ったのだ。指輪を奪わせるわけにはいかない」
 剣十郎は指をポキポキ鳴らしながら言った。
「俺の出るまでも無いと思っていたが、そっちがやるようなら俺は容赦しないぜ」
 レクスが手のひらから炎を出した。
「それにお宝はあんたを追い払った後で僕達がいただく予定なんだから」
「いや、それは駄目でしょ……」
 ついにヴァルキリー以外にもツッコミを入れる様になった桐斗君。
「くっ、中にも出来る奴らがいるなんて。こいつら相手に私だけではさすがに分が悪いわ。それにしても……なるほど、そういう意味ね!」
 ノンは何かを理解して窓をぶち破って外に飛び出した。
「逃げたのかな?」
「そうだといいけれど……何かひっかかるのよね。何かこの部屋にも違和感を感じるし」
 トーコは何かあるのではないかと不安を感じていた。





 アイネは机に向かって勉強をしており、レリアはアイネを監視するかのように彼女を見ていた。
(へぅぅぅぅ、翡翠様だけじゃなくお母様までこの部屋に入って来たらますます任務が難しくなりました。ど、ど、ど、どうすればいいのでしょう?)
「なるほど本当の宝はここなのよね」
 突然窓からノンが飛び込んできた。
「ど、どうして!?」
「指輪の部屋にはあなたが雇った傭兵しかいなかったわ。この家の宝を果たして雇ったばかりの傭兵だけに護らせるかしら? 普通だったら答えは否よね。信用できない傭兵が指輪を奪う可能性だってあるもの。だから普通大切な物は信用できる者が最終防衛ラインになるのではないかしら? つまり、レインボーリングは本当の宝ではなく、本当の宝は別にあるって事よ。」
「この子には指一本触れさせないわ!」
「お母様!」
 レリアがアイネを庇う様に彼女の前に立ちはだかった。
「奥様とアイネ様に手を出すな!」
 ナンクがドアを開けて部屋に入ってきた。
「あなた、邪魔よ、消えなさい」
 ノンは掌から衝撃波を放った。
「ぐああっ!」
 ナンクは衝撃波を受けて壁に叩き付けられた。
「ナンク!」
「誰か、誰か助けて!」
 アイネが恐怖で涙を流すと彼女の目から零れた涙が宝石に変わって床に落ちた。
「成る程。あなたが護りたかったのはこれだったのね。これは珍しいわ」
「この子こそ私の宝です。指輪なら差し上げますからこの子は見逃してください」
「そうはいかないわ。この子がレインボーリングよりも価値のあるものと知っちゃったからね。それに、皆指輪の方に警備が行っているのだから助けなんて誰も来ないわよ」
「待ってください!」
 孔雀はダンボールから勢いよく飛び出した。
「くじゃく!!」
 翡翠はダンボールから身体を出して起き上がり、いまだに頭にかぶっているダンボールの穴から目を覗かせた。
「翡翠様やアイネさんは私がお守ります!」
「くじゃくいる、知らなかった」
 翡翠は孔雀が出て来たことにびっくりして目を丸くしていた。
「え? し、知らなかったのですか?」
「くじゃくすごい、忍者みたい」
「あ、ありがとうございます」
「お嬢ちゃん1人で私とやりあう気かしら?私は子供でも容赦しないわよ」
「1人ではないさ」
 この部屋にはいない男の声が聞こえてきた。
「だ、誰よ!?」
「レインボーリングには金を生む力がある。元々金持ちのこの家がわざわざレインボーリングで金が生まれる事をアピールする必要は無い。もちろん自分の富や地位を自慢する者もいる。でも、この家はそれに当てはめたら不可解な部分があってね。料理人の1人が言っていたよ。確かに奥さんはアイネちゃんに対して冷たく接しているように見えるけど、人の見えない所では凄く心配していたってね。それに、家政婦が見たそうだよ。アイネちゃんが泣いた時、目から宝石が出ていた事を。そこの奥さんはアイネちゃんの能力を隠すためにレインボーリングの力を表に出したんだと思うよ。レインボーリングによる副作用で命を削る事を承知で」
「一体誰なのよ!?」
「母と子の愛の絆を護る男、ジーク!!」
――タッタラー!タタラ!
 ジークが窓の外から部屋に入ってきた。
「またそれなの……くそ、悉く私の邪魔をしてくれるわね!」
「そういう訳だから逃がしはしないよ」
「待て!」
「何よ全く! 次から次へといい加減にしなさいよ!!」
「翡翠は俺が護るぜ」
 陽平が天井からシュタッと華麗に参上した。もちろん孔雀の時の様に着地に失敗する事は無い。
「ようへい!」
「陽平さん!」
「また増えた! もう、人数多すぎよ! 面倒くさいからやる気が失せた、帰るわ!」
 ノンは光を発して姿を消した。
「逃げられたか、でも、これで何とかなったね」
「ア……アイネ。大丈夫だった?」
「お母様……今の話は本当?」
「アイネ、辛い思いをさせちゃってごめんなさい」
 フローラル婦人はアイネを優しく抱きしめた。
「私の方こそごめんなさい。お母様が私よりも指輪ばかり大切にしていたから嫌になって、あの予告状私が出しました」
「いいのよ。私が別の方法でアイネを護っていればアイネを不安な思いをさせなくてすんだのだから。ごめんなさい」
「お母様」
 うーん、親子で百合は駄目だな。感動的シーンで何書いてるんだろう……。





 飛行船内
「生きていたんだな、モヤシ」
「俺がこの程度で死ぬわけ無いだろ。お前こそくたばっていたと思っていたぜ木偶騎士」
 志狼達は空賊グループと合流して共に空賊の飛行船に乗る事になった。
 これまであった出来事をこれこれしかじか、かくかくうまうまでで説明し、今に至る。
「べ、別にお前なんて心配なんてしてなかったんだからな!」
「お、俺だって生きていて欲しいと思っていなかったんだからね!」
「まぁ、まぁみんな無事だったのですから良かったじゃないですか」
「そうそう。お金もたくさん貰ったしね。終わりに金があれば全て良しってやつだよ。まさか空賊と行動を共にしているというのは驚きだったけどね」
「そっちだって増えているじゃないか」
 陽平はレクスの方を向いた。
「俺がいればこの先何の問題もいらない」
「そ、そうか。よろしくな」
「よろしくお願いします」
 ラティアは頭を下げた。
「な、何で犬耳が……」
「まぁ、そういう世界なんだろうな。で、次」
 竜斗が覚悟を決めたように話を次に進めた。
「ああ。本題はこれからだよな」
 柊も次に行く事に賛同した。
「うん。避けては通れないね」
「私、出来れば避けて通りたかったです」
「俺がせーのって言うからその後いこうぜ」
「ええ」
「ああ」
「せーの!」
「「「「この人誰?」」」」
 竜斗のせーのの後、皆が一斉にジーク達に注目した。
「ヨーヘー知り合い?」
「さぁ? 翡翠や孔雀と一緒にいたが、いつの間にかついてきているよな……」
「えっと、多分この人が桐斗君の言っていたお兄ちゃんよね?」
「うん。まさかこんな時に厨房で料理なんて作っているはずが無いなと信じていたらまさか本当に料理を作っていたジーク兄ちゃんだよ」
 桐斗は笑顔でそう答えた。否、笑っているのは顔の筋肉でそう見えるのみだった。
「桐斗君……何か恐い……」
「俺は勇者神ヴァルキリー、ジーク。よろしく」
「勇者……神?」
 BANにもゼイドを始めとする神がいる。それまで威厳と尊厳に満ち溢れた神のイメージがあった者もいたが、ゼイド達と共に戦う事によって神が身近な存在となっていった。だが、この神は……身近になったというよりも神のイメージが完全に崩壊した。無神主義者っていいなーと思った者も何人かいたかもしれない。
「質問!」
 柊がビシッと手を挙げた。
「ん、なんだい?」
「ヴァルキリーっていうのはおいらの世界では女神の事をさすんだけど、何で男のジークさんがヴァルキリーなんだ?」
「ああ、俺の世界でヴァルキリーは必ずしも女神の事をさすわけでは無いんだ。最初の勇者神ヴァルキリーが2人の女神から始まったから俺の世界でもヴァルキリーは女神という認識になっているが、実際は北欧の勇者神の総称で女神しかいないというわけではない」
「うーん、訳がわかるようなわからないような……」
「そうとう変わっている世界なんじゃないのか?」
 ジーク、桐斗、ヒルド以外はああ、きっとそうなんだろうなと納得した顔になり、桐斗とヒルドは否定が出来ない……という顔をしていた。唯1人、ジークだけは表情が変わらずにこにこしていた。
「ま、一応今のヴァルキリーにも女神はいるけどね」
「え、いるの?」
「気になるかい?」
「いや、やっぱヴァルキリーっていう位だから女神の方がイメージ沸くだけだから。だから光海、弓をしまえよな」
「またヨーヘーがフラグを立てる気なのかなーって」
「何だよフラグって。とにかく邪な気持ちは無いから安心してくれ。で、誰が女神なんだ?」
「はい。私もヴァルキリーです」
 ヒルドが子供らしく元気よく手を挙げた。
「ヒルドちゃんが女神様……?」
 ヒルドは確かに女性ではあるが…………やっぱりヴァルキリーのイメージではない。
「今は力をセーブされていてこの姿なんだけど、ちゃんと女神だよ。それは俺が保障する」
 ジークがドヤ顔をした。
「いや、保障されても……」
「だけど女神になるためのアイテムがオルゲイトに奪われてしまってね。俺達もオルゲイトを追っているんだ」
「つまり目的は同じなんだな」
「そういう事だよ。まぁ、そんなこんなでよろしく」
「まぁ……いいのか? いいんだよな……多分。よろしく」
「それにしても、こんなに勇者がいるなんて驚きだよ。これで俺は家事に専念出来る」
 ジークはどこからかお玉を出してクルクルっと回した。
「ちゃんと戦え!」
「えー、だってみんな強いじゃん。俺の出番なんて必要なさそうじゃん。だから俺は裏方の家事に専念できそうだし」
「1作品のタイトルになっている主役勇者がそんな事言うな!誰か兄ちゃんキャラがいたら1日、いや、せめて半日でいいから交代して!」
「苦労してるんだな……」
「若いのに大変そう……」
 そんなこんなで空賊線は新たな仲間を乗せて次の話へと進む。





 所変わってオルゲイト邸
「つまり宝を奪えずおめおめ逃げ帰ったという訳だよね。ならばそれ相応のお仕置きが必要だね?」
 オルゲイトがパチンッと指を鳴らすと今回のお仕置き道具と2人の人型生命体が召還された。
「え、お許し下さい。オルゲイト様!」
 2人の人型生命体が後ろからノンを押さえる。ノンは抵抗するが何故かビクとも動かず固定された。
「駄目だよ。それじゃあお仕置きだべぇー」
「きゃあ! 熱い! 熱いいいいいいいい!! 蒟蒻熱い!! あ、駄目、玉子なんて無理いいいい!!!」
「ほらほら、次は大根、巾着餅、ちくわが待っているよ」
「やめてやめてぇぇぇ!!」
「うーん、やめて上げてもいいんだけどね。その代わり誰かがお仕置きの続きを受ける羽目になるよ。誰か受けたい人はいるかい?」
「私が受けるわ!」
 人型生命体の1人がすぐに手を挙げた。
「俺が受けよう」
 もう1人の人型生命体も手を挙げた。
 そう言われるとこう続けたくなるのが性。
「いえ、やっぱり私が」
「「どうぞどうぞどうぞ!」」
「いやあああああああ!!」
 辺りにノンの悲鳴が響き渡った。